今回は、あえて未来を言い切ります。
ショールーミング化後の未来を予測しましたが、その結果は意外なものでした。不利と思われている大手小売の未来が明るく、有利と思われていた小規模のECサイトには困難な状況となります。
※この予測は大手小売のバイイングパワーが強い家電やPCの業界を念頭に置いています。
過去のショールーミング
ショールーミングという行為はスマホの普及前、PCの時代から存在しており、特段新しいものではありません。店舗に行って商品を確かめて、家に帰ってから楽天や価格.comなどで同じものを探して安ければそこで買うという行動です。これが、スマホが普及することによって2つの点で変化が起こりました。
- PCは元々ホワイトカラーにしか普及していなかったが、スマホは万民に普及している。
- 家に帰らず、その場でネットショップを調べることができる。
ここでPC時代と今とでショールーミング行動をとる人の数を比較してみましょう。
PC時代にショールーミング行動をとる人の数は、
家にPCを持っている人口 × わざわざ一旦家に帰って値段を調べなおす割合 ÷ 全人口
=2000万人 × 5%(推定) ÷ 1億人
=1%
一方でこれからショールーミング行動をとる人の数は、
=60%(アメリカでの消費者調査の結果より)
これまでは全人口の1%の行動であったものが、60%もの行動となって表れるようになります。これまでは一部の得意な顧客行動として考えられていたものであるが、いまや顧客の半分以上がこのような行動を起こすのです。しかもスマホユーザーの割合はさらに増えています。ショールーミングは「今そこにある危機」として小売りの方々は認識された方が良いでしょう。
ショールーミングの未来予測
ショールーミング初期から完了までの過程を大胆に予測してみます。
便利なショールーミングアプリの出現
商品番号や商品の写真などから自動でネットショップ上の価格が表示されるアプリが出現します。当初はそれほど使いやすいものではありませんが、すぐにユーザーが使いやすく、店舗内でもこそっとすぐに価格検索できるアプリが出現し、人気になります。
既存店舗のショールーミング化への抵抗と顧客の囲い込み
これに対して、ショールーミングに対して既存の小売店舗が抵抗を行います。顧客に対する情報遮断や人的サービス向上による囲い込みという手段が取られます。
- 店内でのスマホ使用禁止表示
- 店内での電波遮断
- 大型の小売企業はPB(プライベートブランド)やOEM商品で、ユーザーによる比較検証を難しくする
- 店内接客時のレジまでの誘導の強化
- 信頼性や親近感などの感情に訴える人的なサービスの強化
これらのうち、顧客の情報遮断という手段は即効性がありますが、長期的にはカスタマー・ロイヤリティ低下をもたらすため懸命な手段ではないでしょう。下の写真はその悪い例です。
現実的には、店内積極時のレジまでの誘導の強化が、地味ながら大きな効果を持つと思います。ただ、購買者数と接客店員数が著しくかけ離れていると、対応できる客数が限られるので難しいところです。
ショールーミング専門の店舗の出現
ショールーミングに特化した店舗が出現します。
在庫を持たず、商品は1点ずつしか陳列していません。商品の前にはタブレットなどで販売業者を価格順で表示しています。楽天、Amazon、価格.comなどから一番安いお店から購入することができます。もちろん在庫は無いので、配送は翌日以降になります。
場所は、展示力を活かせる都市中心部の駅ビルの中など。最初はブランドものの服飾品、家電、PCなどの専門店という形で出現します。例えば靴など、サイズ数が多くシーズンもので在庫リスクが高いものは格好の商材です。彼らの収益源は、ネットショップへのアフィリエイトフィー、従量制のメーカーからのキックバック、また陳列棚の場所代をメーカーから得るモデルになります。
商品によって成功するケースとそうでないケースが出てきます。このモデルでの成功するには下記のうちどちらかは必要になるでしょう。
- 売上高/坪単価を既存の店舗よりもかなり高く維持できる
- メーカーからのキックバックを大きく期待できる
いずれにしてもどんな商品でも可能というわけではなく、商品がこの業態に合うのかどうか見極めが大切です。
一部の既存店舗でのショールーミングの積極的活用
時間が過ぎるうちに刻々とショールーミング化が進む一方で、具体的な対応策を採れない小売りがほとんどという状況になります。このような状況の中で、一部の小売から積極的にショールーミング化を活用しようという取り組みが起こります。
はじめは店舗内の一部の商品だけで試験的な試みから始まります。基本的には、ネット上の情報のうち自店舗に有利なものを活用しようという試みです。
・タブレットなどでネットショップの価格情報を掲載し、自店舗に価格優位性があることを証明する。全ての商品だけでなく、自店舗が価格優位性を持っている商品に絞り、そのような店内表示を行います。強いバイイングパワーを持っている家電量販店などで有効だと考えます。
- wifiやbluetoothなどの通信状況をコントロールすることで、自店舗が有利な情報に誘導する。自社のwebサイトや提携先のメーカー、評価サイト等。
- 価格以外の商品スペック情報へと誘導する。商品の納得性を高めて購入率を上げる。
大手小売がメーカーへバックマージンを要求し始める
大手の小売企業がショールーミングに対抗するために、メーカーへの圧力をかけはじめます。大手小売は陳列している商品が、競合であるネットショップでの販売にも貢献しているという理由で、仕入れ先であるメーカーにキックバックや陳列代を要求するようになります。
大手小売はこれまでは販売数量に応じたバイイングパワーで、メーカーに対して値引きを行っていました。
販売数量大 → バイイング・パワー大 → 値引き
これまでは販売数量が、小売企業の力を図るものでしたが今後は違う数値が必要になります。ここでは、販売誘導数量というアフィリエイトに近い数値が参考値となります。これは店舗内からネットショップへの販売に誘導した売上を計測したものです。その値をもとに、販売につなげる力=プロモーション・パワーを計測し、それに応じたキックバックや陳列代の請求が行われるでしょう。
販売誘導数量大 → プロモーション・パワー大 → キックバック、陳列代
店内顧客がネット上の店舗で購入に至った数の計測は当初は難しいので、初期には陳列代の請求が一般的に広まると思われます。奇しくも、ショールーミング専門の店舗と同じ戦略を採り始めることになります。
さて、この大手小売りが要求するバックマージンは、どこが負担するかというと、最終的にはネットショップになります。メーカーは大手小売へのマージン分を埋め合わせるために、小規模店舗(=ネットショップ)への販売価格を上乗せします。この価格調整によって、価格は下記のような形に収束していき、価格差は少なくなっていくでしょう。
大手の価格 = ネットでの価格 + 送料 + 顧客が数日待つコスト
ただし、このような現象が発生するのは、家電のように小売とメーカーのパワーバランスが小売の方が強い場合です。小規模の店舗は、マージンを要求することもできず、採算性がより悪化していく可能性が高いです。
ネットモールと大型小売の連携
このように大手小売りがメーカーから、ショールーミング対策のバックマージンを取ることに成功すると次の段階へ進みます。
メーカーへの圧力によって価格調整が完了しているため、ネットでの価格と実店舗での価格の差は小さくなっています。これによって、実店舗とネット間の連携がよりスムーズに進むようになります。
大手小売が大手ネットモールと提携します。
持ち帰りたい顧客は店舗在庫を、配送を希望する顧客はネットモールからという風に、どちらの場合でも大手小売に利益が入る仕組みになります。
大手小売は、さらに大きな「販売誘導数量」を獲得し、メーカーにさらに強い圧力をかけることができるようになります。
ショールーミングが完了した後の世界
どこの店でも、実物を見ながらネット上で詳細なスペックや口コミを見て購入する商品を決めることができます。すぐに持ち帰りたい場合は、これまで通り店舗在庫で購入します。後の配送でも良い場合は、店員にそう言えば、より安いネットショップを教えてくれて、その場で購入ができるようになります。その場合でも大手小売は、利益を得る仕組みになっています。
大手小売は、ネットモールと提携することで、より広範囲な市場を手に入れることができました。一方で中小の小売は価格では全く歯が立たず、ニッチ化したりネットショップ化する店舗が多く出ます。
小規模のECサイトは、これまでの実店舗に対する価格優位性が薄れ利益率が低下します。マスであるショールーミング客を狙うプレイヤーと、ニッチな商品に特化するプレイヤーに二分化されるでしょう。
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